欧州委員会は2026年8月2日、EU人工知能法(AI Act)の主要規定を本格執行段階に移行させたと発表した。汎用AI(GPAI)モデル提供者に対する監督・執行権限、第50条の透明性義務、罰則枠組みが同日から全面適用される。

罰則は原則として最大1500万ユーロまたは全世界売上高の3%のいずれか高い方(第101条)で、禁止AI違反時は最大3500万ユーロまたは7%まで拡大する。同法は域外適用のため、EU向けにAIサービスを提供する日本企業も対象となる。

画像: Wikimedia Commons「Berlaymont EU Building-Brussels.jpg」より引用 | 出典

執行権限とチャットボット表示義務が同時発効、罰則は最大売上7%まで

欧州委員会の公式リリースと法解説サイトartificialintelligenceact.euの整理によれば、8月2日から次の3つの枠組みが同時に動き出す。

  • GPAI提供者への監督・執行権限: AI Officeが第88条・第89条に基づき技術文書要求、モデル評価、是正措置、制裁金を発動できる。
  • 第50条の透明性義務: チャットボットでの相手方AI明示、ディープフェイクのラベル付け、AI生成コンテンツの機械可読マーキング。
  • 罰則枠組み: 一般違反は最大1500万ユーロまたは全世界売上高3%、禁止AI(第5条)違反は最大3500万ユーロまたは7%、情報提供違反は最大750万ユーロまたは1%(第101条)。

GPAI提供者はさらに、10の25乗FLOPを超える高影響能力を検知した場合、2週間以内に欧州委員会へ通知する義務を負う(第51条・第52条)。第三国から提供する事業者はEU域内に権限代理人を指名する必要がある(第54条)。

欧州委員会は今回のリリースで、180を超える組織が任意のGPAI Code of Practiceに署名済みであり、監督活動は署名者への「信頼向上」提供に集中させると表明している。

高リスクAI規定は延期審議中、透明性義務は延期対象外

一方で、附属書IIIに定める高リスクAIシステム規定は、欧州委員会の規制簡素化パッケージであるDigital Omnibus法案で施行延期が審議されている段階にある。採用、教育、信用スコアリングなどの分野が対象で、審議結果によっては実務準備の期限が後ろ倒しになる可能性が残る。

ただし、財経新聞の解説では、第50条のチャットボット開示義務や合成コンテンツ表示義務はこの延期対象に含まれておらず、8月2日から予定通り本格適用される点が明示されている。事前存在するGPAIモデルには2027年8月2日までのコンプライアンス猶予期間が設定されており、既存モデルへの遡及適用は段階的に進む。

日本企業も域外適用対象、対応の要点は開示表示と技術文書整備

法解説サイト法改正ナビは、EU AI法が日本企業に及ぶ範囲として次の類型を挙げている。

  • EU向けAIサービス提供者: クラウドサービスやAPI経由でEU利用者に提供する企業。
  • AI搭載製品の輸出企業: 生成AIや推奨エンジンを組み込んだ機器・ソフトウェアを欧州市場に販売する企業。
  • グローバル人事・与信ツール運営者: EU利用者を持つ採用支援や信用評価のAI提供者。
  • 汎用AIモデル開発者: GPAIモデルを開発し、EU域内でも利用される場合。

日本の法解説サイト『法律のミカタ』は、実務対応のポイントとして次の6点を挙げている。

  • EU市場接点の棚卸(直接販売、子会社経由、EU利用者アクセスなど)
  • 組織上の役割(提供者・利用者・輸入者・販売者)の特定
  • 適用対象AIシステムのリスク分類
  • GPAI技術文書と学習データ要約の整備
  • 高リスクAI用ガバナンス体制の構築
  • 社内利用生成AIの表示義務チェック

とくにチャットボット開示は、利用規約への記載だけでは不十分とされている。財経新聞は、チャットUI上にバッジやラベルなど恒常的な視覚的インジケーターの付与が必要と指摘している。

今後の展望

欧州委員会の初動は、まず署名済み事業者への「信頼向上」提供に軸足を置くとされているが、監督実務の焦点は今後の具体的な情報開示要求と最初の制裁事例に移る。

  • Digital Omnibus法案の審議結果: 高リスクAI規定の延期範囲と施行時期の最終決定。
  • 主要提供者への最初の情報要求: OpenAIやGoogleを含む主要GPAI提供者のうち、どこが最初に技術文書提出やモデル評価アクセス(第92条)を求められるか。
  • 2027年8月の事前存在GPAIモデル猶予切れ: 既存モデルのコンプライアンス整備進捗と猶予期間終了後の対応。
  • 日本企業の適用対応事例: 大手SaaSやグローバル製造業を中心とした開示表示・技術文書整備の具体的な進捗。

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