メモリ市場の価格高騰に終わりが見えない。台湾の調査会社TrendForceは2026年3月31日付の市場分析で、4-6月期の汎用DRAM契約価格が前四半期比で58〜63%、NANDフラッシュは70〜75%上昇すると予測した。同社は要因として、北米のクラウド事業者がAI推論基盤の拡張を加速させ、サプライヤーが限られたDRAMウェハ生産能力を高利益率のサーバー向けに優先配分している点を挙げている。
ただし、この上昇率は1-3月期の汎用DRAM契約価格上昇(90〜95%)からは減速している。それでも米IDCが2月26日付ブログで世界スマホ出荷を2026年に12.9%減、PCを11.3%減と下方修正する根拠としたメモリ価格水準は依然として歴史的高値圏にある。AIインフラ投資の余波が消費者向け電子機器の販売構造そのものを変えつつある。
画像: Wikimedia Commons「File:SK Hynix DDR5 form factors.jpg」より引用 | 出典
4-6月期も歴史的高水準、レガシーメモリで価格逆転が発生
TrendForceの3月31日付分析によれば、4-6月期のメモリ契約価格上昇率は製品別に大きな差はあるものの、全カテゴリで歴史的高水準が続く見込みだ。
- 汎用DRAM契約価格: 前四半期比58〜63%上昇予測。
- NANDフラッシュ契約価格: 前四半期比70〜75%上昇予測。
- グラフィックスDRAM(GDDR): さらなる上昇余地あり。
- PC・モバイルDRAM: 高コスト圧力で生産計画見直しの兆し。
汎用DRAMの上昇率は1-3月期の90〜95%から減速したが、TrendForceはこれをサプライヤー側の「サーバー向け優先配分」と「PC・モバイル向け需要鈍化」が同時に作用した結果と整理している。
スポット市場では、より顕著な構造変化が観察されている。同社の市場価格データではDDR4のスポット価格が1ギガビット当たり2.10ドルに達し、AI半導体向けの高帯域メモリHBM3eのスポット価格1.70ドルを上回る異常な逆転が起きている。レガシーメモリの生産が縮小局面に入る一方、PC・組込み向け既存需要が残っていることが背景にある。
サプライヤーは複数年契約を主要顧客と相次いで締結しており、クラウド事業者は「より高い価格を受け入れてでも安定供給を確保する」(TrendForce)動きに転じている。
需要はAIサーバー、供給は「売り切れ」状態に
メモリ価格高騰の根本要因は、AIサーバー向け需要が在庫を圧迫している点にある。
サプライ側では、SK Hynixが2025年10月29日の四半期決算説明会で「2026年の高帯域メモリ供給は完売した」と公表している。CNBCの報道によると、同社の郭ノージュンCEOは「今年の高帯域メモリ供給はすでに完売しており、2026年分の顧客協議を上期中にまとめる」と説明した。
Samsungは2026年1月7日付のNetwork World報道で、メモリ供給制約が業界全体の価格上昇を招くと警告した。同社経営陣は「2028年までは新工場の量産稼働が見込めず、短期的な救済策はない」とし、ガートナーは2026年のDRAM平均価格が前年比47%上昇すると予測した。
供給制約の構造的な原因は、HBM(高帯域メモリ)の生産シフトだ。北米調査会社の集計では、HBMが2026年に世界DRAMウェハ生産能力の20%以上を占有しており、AIブーム前のほぼゼロから急増している。Samsung、SK Hynix、Micronの主要3社はサーバー向けの利益率を優先しており、TrendForceは「2027年後半から2028年にかけての新工場稼働まで構造的不足は解消しにくい」と分析している。
消費者向けは低価格帯が消滅リスク、メーカーはコスト構造の再編へ
メモリ価格高騰の影響は消費者向け電子機器に直接波及している。IDCが2月26日付ブログで公表した予測では、2026年の世界スマホ出荷は前年比12.9%減、PCは11.3%減となる一方、PC売上は平均販売価格(ASP)上昇で1.6%増加する見通しだ。
IDCは「2026年は150ドル未満で出荷されるスマホ3.6億台が影響を受ける」とし、影響はアフリカで全体の60%、インドで30%が集中するとした。同社は2025年12月時点の3.6%上昇予測を6.9%上昇へ大幅に上方修正しており、消費者向け価格の上昇ピッチは想定を大きく超えている。
メーカー側のコスト構造変化も鮮明だ。米HPの経営陣は、PCの部品コスト(BOM)に占めるメモリ・ストレージの比率が「従来の15〜18%から2026年は約35%へ上昇している」と説明した(Sourceability集計)。Samsung、Xiaomi、OPPOの主要スマホメーカーは2026年初頭から価格改定とスペックダウンを実施しており、IDCはメモリ供給制約が「2026年を通じて、おそらく2027年に入っても続く」と見込んでいる。
一方で、サプライヤー側にとっては利益率の高いAIサーバー向け契約を長期で確保できる構造でもある。消費者向け値上げが続く限り、サプライヤーの生産優先順位がAIサーバー側へ偏る構図は当面変わりにくい。
今後の展望
第一に、TrendForceや韓国・米国の証券アナリストが公表する7-9月期の契約価格予測を確認する必要がある。4-6月期の上昇率減速が一時的な調整か、PC・モバイル需要崩れによる本格的な軟化かは、4-6月期決算と次期ガイダンスの開示でようやく判別できる。
第二に、HBM4の量産進捗が次の焦点になる。Samsungは2026年2月、SK Hynixは第3四半期からHBM4の量産を開始する計画で、NVIDIAの次世代AI半導体プラットフォームRubin向けの実出荷が始まれば、汎用DRAMからの生産シフトがさらに進む可能性がある。
第三に、消費者向け電子機器の販売動向と価格転嫁の限界点を確認する。IDCの「2027年に入っても続く」との見立てが正しければ、低価格帯スマホ・PC市場で出荷台数の減少と平均価格の上昇が同時に進む構造が固定化する。日本市場でも、メモリ大手と長期契約を持たない中小メーカーの調達や、消費者向けPC・スマホ販売価格に影響が及ぶ局面が、年後半に明確になる可能性がある。
出典:
- AI Server Demand to Drive Memory Contract Price Increases in 2Q26 as CSPs Secure Supply via Long-Term Agreements - TrendForce
- Memory Shortage Crisis Hits PCs and Smartphones - IDC
- Samsung warns of memory shortages driving industry-wide price surge in 2026 - Network World
- SK Hynix, a critical Nvidia supplier, has already sold out chips for 2026 as AI demand booms - CNBC
- DRAM prices predicted to jump 63% in Q2, NAND up to 75% — follows 95% jumps in Q1 - Tom's Hardware
- Tracking Memory Price Increases Across the Last Several Quarters - Sourceability
