2026年5月20日付で米証券取引委員会に提出された上場申請書で、AnthropicがxAIから3年で計約450億ドル分の計算資源を購入する契約を結んでいたことが明らかになった。Anthropicは月12.5億ドル(約2,000億円)を支払い、テネシー州メンフィスの「Colossus」スーパーコンピュータを利用する。
ただし、Anthropic自身は大手クラウド各社とも巨額の計算資源契約を結んでおり、今回の合意は調達先の多元化の延長線上にある。それでも、22万基超のNVIDIA製GPUを擁する施設の全出力と最新世代まで競合のAI企業に貸し出す契約は、これまで公表された企業間の計算資源取引として前例のない規模となる。
22万GPU、300メガワット、90日解約条項
申請書を提出したのはイーロン・マスク氏率いるSpaceX。契約はAnthropic向けに、メンフィスのデータセンター施設「Colossus」の第1世代と第2世代の双方へのアクセスを与える内容だと記されている。
主な契約条件は次のとおり(TechCrunch、Teseryなどの報道によると)。
- 支払い: 月12.5億ドル、2029年5月までの3年契約。最初の2か月は立ち上げ期間として割引が適用される。
- 総額: 売り手側に最大で約450億ドル超の売上をもたらす可能性がある。
- 解約条項: いずれの当事者も90日前の通知で解約できる。
- 対象設備: 第1世代の出力全量と、第2世代に導入されるNVIDIA製GB200世代GPU。総計22万基超。
- 電力規模: 約300メガワット相当。
申請書のなかでSpaceXは「当社の余剰計算能力を収益化するもの」と説明し、「これと同種のサービス契約を追加で結ぶ予定」とも記している。
公式プレスリリースではなく、上場準備のための一次資料で初めて表面化した点が、この契約の特徴を際立たせている。
競合間契約の背景、Grok減速と計算資源の多元化
前向き材料としては、Anthropicが計算資源の調達先をさらに分散できる点が挙げられる。同社は既に大手クラウド各社の自社開発AI半導体と並行して大規模に学習を回しており、競合のGPUクラスタが新たな選択肢となる。
xAI側にも収益面の追い風がある。申請書ではGrokの月間アクティブユーザーが直近で減少していることにも触れていると複数媒体が報じた(TechCrunch)。需要見通しが不透明ななかで、自社向けに整備した計算資源を競合に転売することは、施設第2世代への巨額投資を回収する現実的な手段となる。
注意点も複数ある。
- 競合依存: Anthropicは自社で運用責任を持たないxAIインフラに大きく依存する形となり、運用トラブル時の責任分界が不透明になりやすい。
- 90日解約条項: 短い解約通知期間は、どちらの企業も状況変化に応じて契約を縮小しやすい一方、収益・調達計画の安定性は低い。
- インフラ稼働の地元摩擦: xAIはメンフィスの地下水資源への依存軽減を狙った8,000万ドルの排水処理プラント建設を一時停止しており、イーロン・マスク氏は4月にColossus 2完成後の再検討を示唆していた(Fox13 Memphis)。地元自治体・住民との関係は引き続き論点となる。
xAI傘下の事業はSpaceX内の「SpaceXAI」部門に統合された経緯もあり、上場準備のなかで計算資源事業の位置付けが明確化されつつある。
AI業界構造への含意、IPO評価と計算資源の市場化
今回の契約はAI業界の構造変化を示している。
第一に、計算資源が個別企業の内製インフラから、企業間で売買される「商品」に近づいた。これまでは大手クラウド3社が主な売り手だったが、xAIが第4の大口供給者として参入した形となる。
第二に、AIモデル企業の評価額算定で「自社の計算資源確保ルート」が以前にも増して重視される。Anthropicは別途2兆ドル規模のIPOを準備中と報じられており、複数の供給先を持つことが評価額の根拠の1つとなる(HotHardware)。
第三に、SpaceX自身の上場ストーリーが、衛星通信「Starlink」だけでなくAI計算資源を含む形に拡張された。投資家にとっては、SpaceXの売上構成と需要持続性を評価する材料が一段と複雑になる。
今後の展望
次に見るべき点は3つに絞られる。
- SpaceXとAnthropicのIPO進捗: 両社の上場時期と最終評価額の交渉。
- 追加同種契約: SpaceXが「同種のサービス契約を追加で結ぶ予定」と記しており、他のフロンティアモデル企業との契約が明らかになるか。
- 解約・縮小リスク: 90日解約条項のもとで、Anthropicが他クラウドへの依存度をどう調整するか、売り手側がGrok需要回復に応じて契約縮小を求めるか。
競合関係にあるAI企業同士で計算資源を融通する慣行が広がるかは、今後の発表と稼働状況で見極める必要がある。
出典:
- Anthropic will pay xAI $1.25B per month for compute (TechCrunch)
- Anthropic will pay xAI $1.25 billion in monthly rent, SEC filing reveals (Fox13 Memphis)
- SpaceX $45B Anthropic AI Compute Deal: $1.25B/Month for Colossus I & II, 200,000+ GPUs (Tesery)
- Anthropic Inks Massive SpaceX Compute Deal Ahead of $2 Trillion IPO (HotHardware)
- SPACE EXPLORATION TECHNOLOGIES CORP - Form S-1 (SEC)
